一般的に海外におけるえび養殖は莫大な環境破壊の上に成り立っていました。森林を伐採して養殖池を作り、せまい池に大量の稚えびを飼い、配合飼料や薬剤で成長を早める。おまけに酸素ペダルという機械で酸素を送り続けるために、電気や油を大量に使うというありさまです。
世界のえびの相場は常に乱高下します。各国で大量に収穫できたときには値が下がってしまう……こうした様々な要因が養殖業者の経営を疲弊させ、結果的に安全性の低下を招くこともありました。
私は、海外駐在時代にこうした現場を見てきたため、ある日思ったのです。
「ニチレイフレッシュが扱うえびは、こういうものであってはいけない!」
その日から、安全性に優れ、環境を破壊しない、相場に左右されない、ニチレイ製品にふさわしい養殖えびを探し始めました。1995年頃のことです。
インドネシアで以前から行われていた養殖方法があります。それが「粗放養殖(そほうようしょく)」と呼ばれる方法です。簡単に言うと、自然の地形を活かした養殖池に囲いを施し稚えびを少量放します。あとは自然に任せるだけ。えさは与えません。自然界のプランクトンを食べて、広大な池で育ったえびは大型でたくましく成長。収穫の際も機械を使わずに、満月の夜の干潮を利用します。だから環境にも優しいわけです。
私はこの「粗放養殖」に目を付けました。これこそニチレイの扱うえびにふさわしい!と思いました。そこで当社は「粗放養殖」の拡大に支援を続けてきました。その支援先が現地のMMA社です。
しかし、もうひとつの問題。森林伐採が未解決のままでした。そこでこのプロジェクトを思いつきました。「粗放養殖」のえびが売れれば、売れるほど、マングローブの森が増えていく……そんな夢のようなプロジェクトです。
「私は国内に戻り、営業と同行して色々なお客様に、この「生命の森プロジェクト」のえびをご案内しました。評判はすこぶる良かったです。ところがどのお客様からも最後に口を揃えて「値段が安ければね……」と言われました。
だからといって値段を下げるわけにはいきません。価格競争に参加しないで養殖業者を守るのも、このプロジェクトの趣旨です。かといって、このまま買い手がつかなければプロジェクトは水の泡。
趣旨に賛同していただけるお客様を見つけること。それが一番苦労した点です。しかし、私はあきらめませんでした。
一生懸命、このプロジェクトを各所で説明しているうちに、ある組合組織のバイヤーさんにお会いすることができました。日本に何千万人という組合員を持つ組織です。私どもの趣旨に賛同して頂き、組合員向けの商品カタログで大きく取り上げていただきました。組合員の方たちの多くは環境保全に対する意識が高く、その後たくさんの注文を頂きました。
こうしてこのプロジェクトは、現実のものとして2006年に動き出しました。当社的にもその組合組織と初の取引を行う事ができて大きなメリットがありました。